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曇りの ち晴れの日とネコさんと

曇り空の日曜日。
こういう日は何となく気持ちが沈みがちになるものだと思う。

「昴さん。お茶が入りましたよ」
「ああ、ありがとう大河」

ぼくからカップを受け取り、優雅な仕草でお茶を飲んでいるネコさんは一見普段と何も変わらないように見えるけど・・・
「どうした?大河。僕の顔に何か付いている?」
「い、いえ。何でもないです。ごめんなさい」
「・・・そうかい?なら良いけれど」
そして何事もなかったかのようにまた優雅にお茶を飲むネコさん。

  

う~ん。
あからさまに不機嫌そうな顔をしているわけではない。
話しかければ普通に受け答えしてくれるし今朝の朝食だってしっかり食べていた。
でも笑っている顔にイマイチ元気がないし口数も少なめ。
何と言うか・・・いつもの昴さんとは何かが違うような気がするんだ。
機嫌が悪いというよりは落ち込んでいるような・・・

空になった二人分のティーカップをキッチンへ運び
手早く洗い物を済ませる。
部屋に戻るとネコさんは窓辺に座りボンヤリと外を 眺めているようだった。

今にも雨が降りそうな曇り空。
でもきっと、昴さんの落ち込みの原因はお天気のせいではないのだろう。
(昨日お稽古中にサジータさん達と何かあったのかな?)
色々と思い当たる事を思案しながら静かにリビングのドアを閉じ、
ぼくは寝室の自分のベッドに腰を下ろした。

こういう時、ぼくはなるべく昴さんをそっとしておくようにしている。
恋人なのにそんな冷たい・・・と、思われるかもしれないけれど、
昴さんはきっと『気分が落ち込んだ時は一人になりたい』タイプの人なんだと思うんだ。
これは昴さんと恋人同士になってから気がついたことだ。
最初のうちは少しでも昴さんの様子がおかしいと心配でアレコレ構い倒してしまい最後には「うるさい!」と、怒られたりもしたから。

「あの時は失敗だったなぁ」
ぼくは自分自身が『 気分が落ち込んだ時は誰かと一緒にいたい 』タイプの人間なので昴さんにも同じ対応をしていたけれど、
それは大いなる過ちだったのだとしばらくしてから気がついた。

ぼくと昴さんは恋人同士
でも他人同士でもある。

自分がこう思っているから恋人も同じだ!!なんて、そんな傲慢な押し付けはやってはいけない事なんだ。
違う人間である以上、物事に対する考え方感じ方はそれぞれ違うものなんだから。
「・・・ちょっと寂しいけど仕方ないよね。」
本当は昴さんが落ち込んでいる理由を聞いて
思いっきり抱きしめていっぱい慰めてあげたい!
でも!でも!!我慢する!
昴さんがぼくにそんな慰めは望んでいないから!


大丈夫。ネコさんはいつまでもウジウジしているままのネコさんじゃない。
ぼくの大好きなネコさんはとっても強い人なんだもの。



それから何時間経っただろう。
ベッドの上でボーとしていたぼくは、ふと部屋の中が明るくなっていることに気がついた。
どんより曇り模様だった空はいつの間にか日の光が射してお天気になっている。



「わ、晴れたんだ。良かった」
外の様子を見ようとベッドを降りたのとほぼ同時、部屋に小さなノックの音が響いた。
「大河。入っても良いかい?」
「あっ!昴さん。どうぞ」

静かにドアが開き、部屋に入ってきた昴さんの顔を見てぼくは嬉しくなった。
先程の物憂さな顔からいつもの明るい笑顔に戻っていたからだ。

他の人から見れば何が違うの?と、思われるかもしれないけれど・・・
ぼくは昴さんと恋人同士になってからはこの人のほんの少しの表情の変化などがよくわかるようになった。
近しい関係でなければきっと見逃してしまうと思う。それはささやかな違和感だったから。

きっと昴さんは今までもずっとそうしてきたんだろう。
悲しい出来事や落ち込む事が起こってもそのことは決して周囲には気付かせず一人で解決して
そうして何事も無かったかのように笑い、時には優しい嘘もつく。
本音を言わせてもらえればそういう時はもっとぼくの事を頼ってほしい気持ちはあるけれど
こればかりは昴さんとぼくの考え方の違いの問題なので致し方ない。

これからはぼくもいろいろ人生経験を積んでもっとでっかい男になれるように努力していかないとね。
ぼくは昴さんの全てを受け止め、支えられるようなでっかい男になるんだ。




「外は良いお天気になったよ。大河。どう?これから外に昼食でも食べに行かない?」
「いいですね!ぼくホットドッグが食べたいです」
「ふふっ。良いね。今日は僕が奢ってあげるからホットドッグには君の好きなトッピングをしてたくさん食べるといい」
「わぁ♪ありがとうございます!じゃあぼく今日はソーセージ2本入りの鶏肉もトッピングしちゃおう!」
「すごいボリュームだな。調子に乗って食べ過ぎてお腹を壊すなよ大河」
「はぁい」


恋人からの素敵なお誘いにぼくはウキウキしながら手早く身仕度を済ませる。
昴さんに手を差し出すとネコさんは子猫のような可愛らしい仕草で小さな手を乗せてくれた。
「・・・・ぅ・・」
「はい?」
その時、昴さんが何事かを呟いたような気がしたけれどよく聞き取れなかった。
「どうした?」
「あ、いや・・・昴さん今何か言いましたよね?」
「ん?僕は別に何も言っていないよ。」
「え?でも・・・」
「ほらっ!グズグズするな大河!あのホットドッグ屋は人気の店なんだから早く行かないと売り切れてしまうぞ」
「わひゃあっ!!痛い!痛い!昴さんそんなに引っ張らないで」
「急げ!」
「はーい」
何となく上手くはぐらかされてしまった感じはあるが
さっきの昴さんの唇の動きは確か
『ありがとう』と、
言っていたような気がするんだけど・・・

でもまあ。いいか。
今目の前の昴さんは明るく笑ってる。
その笑顔を見ているだけでぼくはもう充分なんだ。

小さい体なのに意外と力持ちだったりするネコさんにグイグイ手を引かれながら、ぼく達は部屋を後にする。
外は暖かい陽射しに優しい風
体に感じる自然の恵みは何もかもが心地好かった。


曇りのち晴れの日曜日。
お天気も人の心も同じようなものだ。
晴れの日もあれば曇りの日もあるし雨の日もある。
憂鬱なお天気が続いてもいつかはきっと晴れるだろう。

明日がもし雨の日でもぼくが昴さんに傘を差しかける。
ちょっとぐらい濡れてしまっても大丈夫!

雨はきっとそのうち止むと思うから。

END


タブレット端末に物書きアプリを入れてみたので、ちょっとお試しで書いてみたお話です。
久しぶりのネコさんシリーズだぁ♪


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